概要は動画で
法定のいじめ対策委員会を開かず、記録も残していなかった
長野県御代田町の町立御代田南小学校では、学級内で暴言、暴力、登校不安、授業の不成立が確認され、その後、特定の児童に対する継続的ないじめ、物品損壊と威迫、腹部への複数回の殴打・蹴り上げへと被害が深刻化していった。
学校側はその都度、「組織的に対応する」「複数の教職員で見守る」「被害女児の安全を最優先にする」と説明してきた。しかし、保護者が行った公文書公開請求によって確認されたのは、学校側の説明とは正反対の実態であった。
公文書公開請求では、被害女児が在籍した学級や今回の個別事案だけに限定せず、令和7年度(2025年4月~2026年3月)における御代田南小学校全体のいじめ対策委員会の開催実績、協議記録、判断記録などを対象とした。しかし、学校全体を範囲としても、法第22条に基づくいじめ対策委員会の開催や協議を示す記録は確認されなかった。
【本稿における「いじめ対策委員会」の表記】
いじめ防止対策推進法第22条は、学校に対し、いじめの防止、早期発見および事案への対処を実効的に行うための組織を置くことを義務付けている。文部科学省では一般に「学校いじめ対策組織」と表記しているが、読者に分かりやすい一般的な呼称として、本稿では以下「いじめ対策委員会」と表記する。
いじめ防止対策推進法 第22条・第23条に反する「違法な不作為」
いじめ防止対策推進法第22条は、学校に対し、いじめの防止等に関する措置を実効的に行うため、複数の教職員や専門家などで構成する組織を置くことを義務付けている。また、同法第23条は、児童がいじめを受けていると思われる場合、学校に対し、速やかな事実確認と学校設置者(教育委員会)への報告を求めている。
文部科学省も、ささいな兆候、懸念、児童からの訴えなど、いじめの疑いに関する情報があった場合には、特定の教職員だけで抱え込まず、いじめ対策委員会を活用して速やかに組織的対応を行うよう繰り返し求めている。
ところが、公文書公開請求は令和7年度の学校全体を対象としていたにもかかわらず、いじめ対策委員会の開催、協議、判断、対応方針の決定を示す記録は確認されなかった*。これは、今回の個別事案だけで協議記録がないという問題ではなく、同年度の学校全体において、法定委員会の運用実態を公文書から確認できないという問題である。
*開示されたいじめ対策委員会の文書は、2025年11月28日開催の1枚で、協議内容も臨時学級懇談会の開催についてのみ、いじめの個別協議の記録はない
見守り担当者の配置、役割分担、危険性の評価、情報共有、対策の見直しを示す資料も確認されず、学校が繰り返した「組織的な対応」を裏付ける記録は示されなかった。
6月29日の面談で岡部温樹校長が認めた事実
2026年6月29日の面談において、保護者が、どの法令・基準に基づいて教職員間で協議したのか、いじめ対策委員会として何を判断したのか、その記録はどこにあるのかを確認した。
これに対し、岡部温樹校長は、次の趣旨の説明を行った。
- 法に基づく委員会としては行っていない
- 協議自体の記録はない
- 教頭とは情報を共有した
- 校長自身のメモはある
管理職間で会話をしたことと、法定のいじめ対策委員会に情報を集約し、構成員によって事実確認、危険性評価、対応方針の決定、役割分担、事後検証を行うことは同じではない。
校長の「個人メモ」は正式な協議記録になるのか
岡部温樹校長は、協議記録がないことを問われ、「私の方のメモはある」と説明した。
保護者が行った公文書公開請求は、学校において作成、取得または組織的に用いられていた一切の公文書を対象とし、相談記録や教職員間の共有記録も含めていた。したがって、そのメモが校長と教頭による職務上の協議や学校の判断に用いられたのであれば、公文書として特定されなかった理由が問われ、公文書公開手続に違反した疑いが生じる。一方、学校として共有・管理されていない単なる私的な備忘録であるなら、いじめ対策委員会による正式な協議や組織的対応の記録にはならない。
組織的対応の証拠として扱うなら公文書であり、公文書でないなら組織的対応の証拠にはならない。この点について、学校と教育委員会には明確な説明が必要である。
【確認された不作為】
- 令和7年度の学校全体について、いじめ対策委員会の開催・協議記録を確認できない
- いじめを疑う具体的情報を、いじめ対策委員会へ正式に集約していない
- いじめ対策委員会として事実確認や危険性評価を行っていない
- いじめに該当するかどうかを組織として判断していない
- 組織としての対応方針や役割分担を記録していない
- 発生した被害を踏まえ、再発防止策を検証・更新した記録がない
これらは、いじめ防止対策推進法が特定の教職員による抱え込みを防ぐために制度化した組織的対応を実施しなかったものであり、本稿では明確な法令違反、すなわち違法な不作為であると評価する。
また、公立学校の校長として法令に従って職務を遂行すべき義務に反する行為であり、地方公務員法上の服務義務違反も問われる。
さらに、被害女児の安全確保に必要な情報集約、危険性評価、対応の見直しを行わなかったことは、安全配慮義務を怠ったものとして、国家賠償法上の違法性が問われる行為でもある。
対応不十分を認め、記録作成の指導も受けながら履行しなかった
2025年12月19日の臨時保護者会に先立ち、保護者は岡部温樹校長と教育委員会に対し、9月22日の学校文書に記載された暴言、暴力、登校不安などは、いじめ防止対策推進法に基づいて扱うべき状況であり、法に沿った組織的対応が行われていなかったことを説明するよう、メールおよび内容証明郵便で求めていた。
その後、学校が12月19日に配布した岡部温樹校長名の文書には、次のとおり明記されている。
「いじめ対応マニュアル・ガイドラインに沿って行うべき対応が不十分であったことを重く受け止めています。」
さらに同文書では、教育委員会の指導を受けて体制を見直し、今後はいじめを含む事案について迅速な事実確認、報告・対応を行い、「組織として最善を尽くす」と表明している。面談録音によれば、学校は教育委員会から記録を残すよう口頭指導も受けていた。
それにもかかわらず、12月19日以降についても、いじめ対策委員会の開催、危険性評価、役割分担、再発防止策の決定を示す記録は確認されていない。その後、2026年3月4日には見守りの空白時間に腹部への複数回の殴打・蹴り上げが発生し、保健室対応と保護者への即時連絡も行われなかった。
【単なる認識不足では説明できない不作為】
学校は、対応がマニュアル・ガイドラインに沿っていなかったことを自ら認め、法に沿った対応を保護者から具体的に求められ、教育委員会から記録作成の指導も受けていた。それでもいじめ対策委員会を開かず、協議・判断の記録を残さなかった。
必要な義務を認識しながら履行しなかった経過であり、安全配慮義務と法定の組織的対応を故意に履行しなかったと見られても仕方がない。
形骸化した見守りと安全配慮義務
第2回の記事で検証したとおり、学校は見守り強化と加害児童との距離確保を説明していた。しかし、見守り担当者の移動時に空白が生じ、その間に加害児童Bが被害女児へ接近し、腹部への複数回の殴打・蹴り上げに至った。
安全配慮義務では、主に次の2点が問われる。
【予見可能性と結果回避可能性】
1.予見可能性
通常求められる注意を尽くせば、児童への危険や被害の発生を事前に予測できたか。
2.結果回避可能性
予測できた危険に対し、見守り配置、交代時の引継ぎ、接触防止、情報共有などの合理的な措置によって、被害を回避できたか。
本件では、継続的な加害、鉛筆の損壊・威迫、保護者からの再発防止要求があり、学校自身も重点的な見守りと距離確保の必要性を認識していた。再発の危険は予測困難なものではなかった。また、見守りの代替要員、交代手順、動線の分離、接近時の制止、危険情報の共有、いじめ対策委員会による再評価など、現実的な回避措置も存在した。実際、暴行後には増員と別室対応が行われている。
したがって、学校が危険を予見でき、回避措置も取り得たのに実施せず、被害を発生・拡大させたのであれば、安全配慮義務違反として不作為の違法性が問われる。いじめ対策委員会と記録は、危険を事前に把握し、回避措置を決定するための安全管理そのものである。
記録の仕組みすら機能していなかった
いじめの記録は、いじめか否かが判断される前の段階から、いつ、どこで、誰が、誰に対して、どのような行為を行い、学校が何を確認し、どのような対応を行ったのかを記録する必要がある。記録がなければ、同じ児童による行為が繰り返されているのか、被害が深刻化しているのか、見守りや接触防止策が機能しているのかを組織として判断できない。
国立教育政策研究所は、学校がいじめに関する情報を蓄積し、教職員間で共有するための参考資料として「いじめ等対応記録ツール」を公開している。このツールは、長野県のいじめ対応マニュアルでも活用が示されている。
しかも、岡部温樹校長がこれらの法令や県のマニュアルを知らなかったとは考えにくい。2025年11月に被害女児へのいじめが発覚した際、保護者は、いじめ防止対策推進法と長野県のいじめ対応マニュアルを自ら印刷し、岡部温樹校長へ直接手渡した上で、同法と県の指針に則った対応を行うよう明確に要請していた。
したがって、その後もいじめ対策委員会として協議せず、判断や対応経過の記録を残さなかったことは、法令や県の指針を知らなかったことによる単純な見落としでは説明できない。
これは大がかりなシステムや予算を必要とするものではなく、記録の追記・蓄積や調査用データの集計に利用できる無償の参考ツールである。当サイトでも実際にデモ版を操作したが、入力項目と操作方法は分かりやすく、特別なシステム知識がなくても利用できる内容であった。
長野県のいじめ対応マニュアルには、記録を残すことが明確に記載されている。
<情報の記録>
・いじめと判断してからの記録では、改善に役⽴てることは困難。いじめか否かが判断される前の段階から記録を残す。
・いじめの指導等に関する記録(いつ,誰が,誰に対して,どんなことを等)を組織的に情報共有するための様式を用意。
岡部温樹校長は、保護者からの再三の要請に加え、教育委員会からの指導もあり、臨時学級懇談会で対応不備を自ら認めていたにもかかわらず、記録を残していなかったのである。
学級崩壊と担任の離脱を前にしても、いじめ対策委員会を開かなかった
2025年9月の段階で、すでに学級内では次のような状況が生じていた。
- 児童間の暴言や暴力
- 授業が成立しない状態
- 嫌なことをされた児童による「学校へ行きたくない」という訴え
- 担任教諭が心身の不調を訴え、授業に出られなくなる事態
児童への心理的または物理的な影響があり、児童が心身の苦痛を感じている可能性がある以上、直ちに、いじめ対策委員会を開催し、組織として判断すべき状況であった。だが、岡部温樹校長は、いじめ対策委員会としての協議を行わず、一連の状況を法に基づくいじめ事案として組織的に取り扱わなかった。
その後、特定の児童に対する継続的な加害行為、鉛筆の損壊と威迫、腹部への複数回の殴打・蹴り上げへと被害は深刻化した。
9月の段階で情報をいじめ対策委員会へ集約し、児童間の関係、過去の他害行為、危険な時間帯、座席配置、見守り方法を検討していれば、その後の被害を防止できた可能性があった。しかし、組織的な判断も記録もなかったため、被害の累積や危険性の高まりが、学校全体の共通認識として蓄積されなかったのである。
4年前の学級崩壊も「記録らしい記録はない」
6月29日の面談では、保護者から、4年前にも同校の2つの学級で学級崩壊が発生し、担任が学校へ来られなくなり、途中交代する事態があったことが指摘された。
この過去の事案については、6月22日の面談において、現在の教育長である砥石順一氏が、
「記録らしい記録はない」
との趣旨を述べている。
つまり、複数の学級が同時に崩壊し、担任が職務を継続できなくなるほどの重大な事態でありながら、当時の児童間の暴言・暴力、学校が行った対応、原因分析、再発防止策などを後から検証できるだけの記録が残されていなかったというのである。
そのため、現在の学校管理職も、過去の重大な事態や、そこから得るべき教訓を十分に把握していなかった。過去の事案でいじめ対策委員会が開かれたのか、どのような原因分析と再発防止策が決定されたのか、後任の管理職へ何が引き継がれたのかを確認することもできない。
今回の事案でも、いじめ対策委員会の協議記録が存在せず、危険性の評価や再発防止策の決定経過が残されていない。4年前の学級崩壊と今回の事案には、重大な問題が発生しても検証可能な記録を残さないという共通点がある。これは、過去の失敗と教訓を学校の共通財産として残さず、同じ問題を再発させる構造的な記録放棄である。
深刻な状況下でも児童アンケートは年間2回
いじめ防止対策推進法第16条は、学校および学校設置者(教育委員会)に対し、いじめを早期に発見するため、児童に対する定期的な調査その他の必要な措置を講ずることを求めている。
6月29日の面談において、保護者が令和7年度(2025年4月~2026年3月)の児童アンケート実施回数を確認したところ、御代田南小学校では2回であったことが判明した。暴言、暴力、登校不安、授業の不成立、継続的ないじめ、物品損壊、威迫が確認されていた状況で、追加の調査や臨時アンケートを行わず、たった2回の調査にとどめたのであれば、早期発見措置として十分であったとは到底いえない。
同面談では、4月に赴任した教頭が、前任校では毎月アンケートを実施し、常設のいじめ対策委員会を開催して記録を残していた旨を説明している。
学校ごとに運用方法は異なるとしても、御代田南小学校において、深刻な状況に応じて調査頻度を増やし、得られた情報を組織的判断へつなげる仕組みが機能していなかったことは、明確な検証対象である。
「いじめ」という言葉を避け、事案を矮小化した公的記録
学校側が作成した公印付き文書、保護者宛ての回答書、月例報告などを確認すると、深刻な被害が発生しているにもかかわらず、「いじめ」という言葉が一切使用されていないという特徴がある。
被害女児が継続的な加害行為を受け、登校への不安や心理的負担を抱え、さらに受傷を伴う暴行へ至っても、学校は「トラブル」「問題行動」などの表現を用いてきた。
いじめとして認知しなければ、いじめ対策委員会による組織対応、学校設置者(教育委員会)への報告、被害児童への継続的支援、加害児童への指導、再発防止策の検討という、法に基づく手続が開始されない。この学校側の対応は、まるで生活保護申請者の窓際作戦を思い起こさせる。
児童約600人の学校で、年間のいじめ認知は1件
さらに驚くべきは、公文書公開請求によって開示された「令和7年度 御代田南小学校 児童・生徒・職員に係る指導等月例報告集計」によれば、学校が年間を通じて報告した「いじめ」は、11月に計上された1件のみであった。
一方、学校では、少なくとも次の状況が確認されていた。
- 学級内で繰り返される暴言・暴力
- 嫌なことをされた児童による登校不安
- 被害女児に対する約3週間の継続的な加害行為
- 鉛筆の損壊と威迫
- 腹部への複数回の殴打・蹴り上げ
文部科学省の令和6年度調査によれば、公立小学校におけるいじめ認知件数は、1校当たり平均32.2件、児童1,000人当たり101.9件である。
児童数約600人に、全国の児童1,000人当たりの認知件数を単純に当てはめると、約61件に相当する。
御代田南小学校では、学級内の暴言・暴力、登校不安、約3週間にわたる継続的加害、物品損壊と威迫、受傷を伴う暴行が現実に確認されていた。それにもかかわらず、年間のいじめ認知が1件であったという数字は、全国平均と比べても著しく低く、認知・報告の仕組みが実態を反映していなかったことを強く疑わせる。
文部科学省は、いじめ認知件数が多い学校について、初期段階のものも含めて積極的に認知し、解消に向けた取組のスタートラインに立っているとして、極めて肯定的に評価している。したがって、認知件数が少ないことは、いじめの少ない良好な学校であることを意味しない。本件の「年間1件」は、少なくとも積極的認知が機能していなかった客観的な徴表であり、個々の事案を意図的に認知・計上しなかった可能性を含め、第三者委員会で検証されるべき異常な数値である。
9月に学校自身が認めた「暴力」は、月例報告へ反映されたのか
2025年9月22日の臨時学級懇談会のまとめ文書において、学校側は、学級内で「友達に対しての暴言や暴力」が発生していること、嫌なことをされた児童が「学校へ行きたくない」と訴えていることを認めている。
ところが、月例報告では、これらの事実が「いじめ」または「暴力」として適切に計上された形跡を確認できない。学校が保護者向け文書で認めた暴言・暴力が、教育委員会へ提出する統計ではどの区分に計上されたのか。
「問題行動」「その他」など、いじめや暴力とは異なる項目で処理したのであれば、その分類基準と判断者を明らかにする必要がある。公的記録間で事実の表現と分類が異なる状態は、教育委員会や外部機関による危険性の把握を困難にし、結果として事案を矮小化する。
3月4日の受傷事案を「問題行動」として処理
2026年3月4日、被害女児は、加害児童Bから腹部を複数回殴打され、さらに蹴り上げられた。被害女児は医療機関を受診し、学校にも診断書が提出された。
ところが、3月の月例報告では、この事案が「暴力」や「いじめ」ではなく、「問題行動」1件として処理されていた。
6月29日の面談において、保護者は、
診断書も提出している受傷を伴う暴行事案であるにもかかわらず、なぜ「暴力」ではなく「問題行動」として処理したのか?!
と説明を求めた。
この問いに対し、岡部温樹校長は言葉を詰まらせ、なぜ「暴力」ではなく「問題行動」と分類したのかについて、合理的な説明を示すことができなかった。
その直後、新任の教頭は、
「一般的に、暴力は暴力で入れます」
との趣旨を述べた。
校長が分類理由を説明できず、新任の教頭が一般的な取扱いとして「暴力は暴力で入れる」と補足したことにより、学校が行った分類の不自然さは、むしろ明確になった。
これは単なる行政上の記載ミスとして片付けられる問題ではない。診断書が提出された受傷事案を「暴力」から外し、「問題行動」として計上すれば、教育委員会や外部機関が暴力事案の発生を統計上把握できなくなるからである。
本稿では、この処理を、受傷を伴う暴行の実態を公的記録上で格下げし、外部から見えにくくした隠蔽的な処理であると評価する。岡部温樹校長が隠蔽の意図を有していたかどうかも含め、その分類の決定者、判断基準、処理経過を第三者委員会が検証すべきである。
教育委員会へ伝えられた「美化された学校像」
月例報告だけでなく、教育委員会定例会における学校側の説明にも、現場の状況との大きな隔たりが見られる。
学級内で暴言、暴力、授業の不成立、登校不安、担任教諭の離脱が生じていた時期、教育委員会の定例会では、学校運営の改善や前向きな取組が強調されていた。
令和7年8月の定例会では、岡部温樹校長から、挨拶運動により「教室の中での挨拶が増えたと子ども自身が実感している」との趣旨が報告された。また、不登校支援についても、児童を学校へ来させることを急かさず、「気持ちよく来られる学校を目指したい」と説明している。
だが、その同じ時期に、学級内で暴言、暴力、授業の不成立、登校不安、担任教諭の離脱が生じていたのである。前向きな取組だけが強調され、危機的な学級状況が教育委員会へどこまで具体的に報告されていたのかは明らかになっていない。
2025年9月の定例会では、学級の状況について、児童が新しい担任を試して騒いでいること、担任に気にかけてもらうために騒ぐ児童がいることなどが説明された。さらに、砥石順一教育長は、岡部温樹校長の説明として、「まずは授業をしっかり進め、子どもたちと向き合い、学習をしっかりしていく」との趣旨を紹介している。
しかし、すでに暴言・暴力や登校不安が発生していた事実を、児童の発達段階や担任との関係、授業改善の問題へ置き換えて説明すれば、いじめや他害行為の危険性が過小評価される。
また、令和8年2月の定例会では、いじめや道徳教育に関する質問に対し、岡部温樹校長は、11月の「心の旬間」で互いのよいところを認め合ったことに触れた上で、「一方的ではなく、お互いに言ってしまったケースもある」との趣旨を説明している。
この発言は3月4日の暴行事案より前のものであるため、同事案を直接指したものではない。しかし、前年12月までに物品損壊や威迫が発生していた状況で、被害と加害の非対称性を「お互いに言ってしまったケース」と一般化した説明は、学校がいじめや加害行為をどのように認識し、教育委員会へ報告していたのかを検証する上で重要である。
現場では、いじめ対策委員会としての協議記録がなく、見守りも機能せず、被害が深刻化していた。一方、教育委員会の場では、挨拶運動、心の旬間、授業改善などの前向きな説明が並べられていた。この著しい隔たりは、学校が現場の危機を正確に報告していたのか、教育委員会が学校側の説明を無批判に受け入れていなかったかを問うものである。
【学校内の事実と、公的報告の隔たり】
- 学校内:暴言、暴力、登校不安、授業の不成立
教育委員会での説明:自己主張、新しい担任を試す行動、気にかけてもらうための行動 - 学校内:被害女児に対する複数の継続的加害
月例報告:学校全体の年間いじめ認知は1件 - 学校内:腹部への複数回の殴打・蹴り上げ
月例報告:「暴力」ではなく「問題行動」として処理
このような表現と分類によって、学校内で生じていた被害の深刻さが、教育委員会や外部から見えにくくなっていた。
本稿では、一連の処理が結果としていじめや暴力の実態を公的記録から消し、学校の管理責任を見えにくくする隠蔽機能を果たしていたと評価する。
全国の重大事態調査で繰り返し指摘される失敗と一致
全国で公表されているいじめ重大事態の調査報告書では、学校の初期対応が被害を深刻化させた事例について、共通する問題が繰り返し指摘されている。
- 事案の矮小化といじめ認識の欠如
暴行や継続的な他害を「児童同士のトラブル」「コミュニケーション不足」などと捉え、いじめとして積極的に認知しない。 - いじめ対策委員会の不稼働と記録の不作為
情報を組織へ集約せず、担任や一部の管理職だけで処理し、協議、判断、対応経過の記録を残さない。 - 保護者との認識の隔たりと不誠実な説明
被害児童の訴えや保護者の調査要求を軽視し、原因検証よりも、その場しのぎの説明や将来の改善表明を繰り返す。
御代田南小学校で確認された対応も、この構造とぴったり一致する。
- 受傷を伴う暴行を「問題行動」として処理した
- いじめ対策委員会としての協議を行わなかった
- 協議、危険性評価、役割分担、対応見直しの記録を残さなかった
- 公的文書と面談で説明が変化した
- 過去の対応を検証せず、「今後は」と将来の改善を繰り返した
これらは、全国の重大事態調査で繰り返し問題とされてきた、学校が重大事態を招き、被害を拡大させる典型的な過失をまったく同じ状況である。
いじめ対策委員会を開かず、記録を残さない学校が生み出す「泣き寝入り」
いじめ対策委員会を開かず、記録を残さず、事案を「問題行動」などへ置き換える対応は、被害を受けた児童と保護者へ多大な負担を転嫁する。
学校側に記録がなければ、保護者は、被害が起きるたびに、最初から事実を説明し直さなければならない。過去の被害とのつながりも、加害行為の反復性も、学校が以前に約束した安全確保策も、記録上は存在しないものとして扱われる。
その結果、
- 被害が単発の児童間トラブルとして処理される
- 過去の加害との関連性が評価されない
- 危険性が更新されず、同じ対策が繰り返される
- 教育委員会へ実態が伝わらない
- 学校側の説明と保護者の訴えが「認識の違い」として処理される
- 安全が確保されないため、被害児童が登校を断念せざるを得なくなる
という構造が生じる。
被害児童側が学校を休み、転校等によって危険を回避しなければならない一方、学校側の組織的な不作為は記録されず、責任も検証されない。これは、被害者側だけに回避と立証の負担を負わせる、事実上の「泣き寝入り」の構造である。
法定のいじめ対策委員会を使わなかった結果、被害が公的記録から消えていった
本件では、暴言、暴力、登校不安、継続的ないじめ、物品損壊、威迫、受傷を伴う暴行が発生していたにもかかわらず、いじめ対策委員会としての協議は行われず、その判断や対応経過を示す記録も作成されていなかったことが確認されている。
記録不存在は、重大事態調査を困難にし、公費負担を増加させる
いじめ対策委員会の記録は、学校内部の情報共有だけのためにあるのではない。重大事態が発生した場合には、第三者委員会が、学校がいつ何を把握し、どのように危険性を評価し、どのような対応を決定・実施したのかを確認するための基礎資料となる。
しかし、本件では、事案発生当時の協議、判断、対応方針、役割分担を示す記録が残されていない。そのため、第三者委員会は、本来であれば学校の記録から確認できたはずの事実についても、関係者への聞き取り、録音、メール、公文書、保護者側の保存資料などから、一つずつ経過を再構成しなければならない。
これは、重大事態調査の円滑な進行を妨げ、調査期間を長期化させる原因となる。委員の会議、聞き取り、資料整理、事実確認の作業が増えれば、その分だけ調査費用も増加する。
学校が法に基づく協議と記録作成を適切に行っていれば不要であった追加調査に、町民の税金を投入せざるを得なくなるのである。
つまり、記録を残さなかったことによる負担は、被害女児と保護者だけにとどまらない。第三者委員会による事実解明を困難にし、調査の長期化と余計な公費支出を招くという形で、町全体へ転嫁される。
全国で現実に起きている、いじめ記録の捏造疑惑・誤記・管理不備
当時の記録が適切に作成・保存されていない場合、重大事態調査が始まった後に提出された文書が、本当に事案発生当時の記録なのか、どの文書が正式な原本なのか、内容が正確なのかを確認できなくなる。
実際に、全国では、いじめに関する公文書の捏造疑惑、同一記録の異なる版の並存、多数の誤記が問題となっている。
和歌山県海南市では、長年にわたり重大事態として扱われなかった小学校のいじめ事案について、第三者委員会へ提出された会議資料に、別の資料を流用して作成した疑いが浮上した。被害児童の両親は、市教育委員会と学校職員について、公文書偽造などの疑いで刑事告訴・告発している。
東京都小平市では、市立小学校の同一のいじめ対策委員会記録について、電子データと紙媒体で、様式、枚数、件名、校長印、黒塗り部分などが異なっていた。市教育委員会は改ざんを否定したものの、複数の記録が並存していたことを認め、文書管理の不備を説明している。
埼玉県川口市では、中学校のいじめに関して開示された522枚の公文書に、元生徒側が78か所の誤りを指摘した。市教育委員会は当初、訂正しないと決定したが、訴訟後にその決定を取り消し、元生徒側の主張を認めた。
これらの事例が示しているのは、記録が存在しなければ調査が困難になるだけでなく、後から提出された資料の作成時期、原本性、正確性をめぐって新たな疑義が生じ、重大事態調査そのものの信頼性が損なわれるということである。
本件でも、公文書公開請求によって、令和7年度の学校全体における個別のいじめ協議記録が確認されず、岡部温樹校長自身も、法に基づく委員会として協議しておらず、協議記録はないと説明している。
したがって、今後の重大事態調査で学校側から新たな文書が提出された場合には、公文書公開請求時に存在しなかった記録が後から提出されていないか、当時作成された原本であるか、内容が既存の公文書、録音、メールと整合するかを慎重に確認する必要がある。
記録を残さなかった不作為は、調査を長期化させ、余計な公費負担を生むだけではない。後から提出される資料への疑念を生じさせ、重大事態調査の公正性と信頼性を損なうのである。
以上の経過から、岡部温樹校長が、いじめを疑う具体的な情報を法定のいじめ対策委員会へ集約せず、組織としての事実確認、判断、対応方針の決定、記録を行わなかったことは、いじめ防止対策推進法第22条および第23条に基づく組織的対応を履行しなかった、違法な不作為である。
この違法な不作為によって、被害は公的な記録から消え、教育委員会による検証も行われず、被害女児と保護者だけが繰り返し事実を説明し、対応を求め続けることになった。
記録を残さない組織では、過去の失敗を検証することも、次の被害を防ぐこともできない。御代田南小学校で繰り返されたのは、個々の教職員による偶発的なミスではなく、法定のいじめ対策委員会を機能させない学校管理であった。
次回・第4回では、保護者から繰り返し求められていた重大事態の調査申入れに対し、学校と教育委員会がどのように対応したのかを検証する。
本記事に登場する主な日付と資料
本記事では、学校側の説明や対応の変化を確認するため、複数の日付の文書、保護者会、面談記録を取り上げている。それぞれの日付が示す出来事は、次のとおりである。
2025年9月22日 臨時学級懇談会
学校内で、暴言・暴力、授業の不成立、登校への不安、担任教諭の離脱などが生じていたことを受けて、学校が保護者を対象に開催した臨時の学級懇談会である。この懇談会で学校側は、学習相談支援員の配置、複数の教職員による見守り、児童間のトラブルへの組織的な対応などを説明した。
2025年11月21日 学校から保護者へ交付された文書
11月に発覚したいじめについて、学校が被害女児の保護者へ示した再発防止策などを記載した、公印付きの文書である。この文書では、教頭や関係職員による見守り、関係児童との接触防止、トラブルが発生した場合の下校前の保護者連絡などが示された。
2025年12月19日 臨時保護者会
学級内のいじめや学校の対応をめぐり、学校が開催した臨時の保護者会である。学校側は、それまでの対応について説明・謝罪し、学校いじめ対策組織による対応や、複数の職員による見守りを継続する方針を示した。
2026年3月4日 腹部への複数回の殴打・蹴り上げ事案
加害児童Bが、被害女児の腹部を複数回殴打し、蹴り上げたとされる事案が発生した日である。事件発生時、複数配置されると説明されていた見守り担当職員は教室内におらず、教室内にいた担任も、暴行行為にその場で気づかなかった。
2026年4月2日 学校・教育委員会との面談
3月4日の受傷事案を含む学校側の対応について、被害女児の保護者が、岡部温樹校長、学校管理職および御代田町教育委員会に説明を求めた面談である。
この面談では、主に次の点が確認・追及された。
- 見守り体制がありながら、なぜ暴行を防げなかったのか
- 事件発生時、担任や見守り担当職員はどこにいたのか
- 学校が説明していた複数配置が、実際に機能していたのか
- 被害発生後の救護や保護者連絡が遅れた理由
- 新年度における被害女児の安全確保と見守り体制
本記事で引用している岡部温樹校長の口頭発言の一部は、この4月2日の面談録音に基づくものである。
2026年4月10日 岡部温樹校長による回答書
被害女児の保護者が12月~翌年2月の期間中に複数回学校に提出し、期限を設けて回答を求めていた質問事項や重大事態に関する認定等について、学校側は期限を過ぎても回答せず、その後も長期間にわたり具体的な説明を示していなかった。この未回答の状態について、2026年4月2日に御代田町教育委員会が同席して行われた面談の場で、保護者が改めて回答と説明を求めた。その指摘を受けた後、岡部温樹校長が、保護者からの質問事項に対する回答を文書として示したのが、2026年4月10日である。
回答書には、主に次の内容が記載されている。
- 重大事態に該当するかについての岡部温樹校長の見解
- 席替えの判断理由
- 見守り体制や職員配置についての説明
- 12月の鉛筆損壊・威迫事案後に行ったとする対応
- 児童名を文書へ記載しない理由
- 学校側が回答を控えるとした事項
本記事では、この4月10日付回答書と、4月2日および6月29日の面談における岡部温樹校長の口頭説明を比較し、説明内容に不整合がないかを検証している。
2026年4月22日 グラウンドでの威迫的な行為
新年度の見守り体制のもと、グラウンドで加害児童Bが被害女児をにらみつけ、見守り担当者が注意したとされる日である。
しかし、この出来事は学校側の見守り報告書に記載されておらず、後に被害女児本人から保護者への申告によって明らかになった。
2026年6月29日 学校・教育委員会との再面談
被害女児の保護者が、岡部温樹校長および御代田町教育委員会に対し、これまでの回答や見守り体制の運用について、改めて説明を求めた面談である。
この面談では、主に次の点が確認された。
- 2025年11月に示された見守り対策は、加害児童Aだけを対象としていたのか
- 現場の教職員に、対象児童を限定する具体的な指示を出していたのか
- 見守り体制に空白時間が生じた理由
- 職員配置や役割分担を、岡部温樹校長がどのように管理していたのか
- 回答書と実際の運用との間に生じている不一致
岡部温樹校長が「限定という言い方はしていない」と回答した発言は、この6月29日の面談におけるものである。
※:日付は、学校作成文書、回答書、メール、面談録音その他の資料に基づいている。※1:本記事では、学校・教育委員会が作成した文書、保護者とのメール、面談録音、被害女児から保護者への申告などをもとに、確認できた事実、学校側の説明、保護者側の主張および本記事による評価を、可能な限り区別して記載する。※2:学校側の回答は、回答書または録音記録に基づいている。発言については、趣旨を変えない範囲で不要な言いよどみ等を整理している箇所がある。※3:「加害児童A」「加害児童B」は、本記事上の便宜的な表記であり、児童個人を特定するものではない。




















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