現在、第三者委員会による調査が進められている御代田町立御代田南小学校における初のいじめ重大事態。その経過を検証する中で、学校側が保護者に説明していた内容と、その後に明らかになった実際の対応との間に、重大な乖離が存在していたことが判明している。
自らの不手際を反省し、今後の改善を約束するかのように保護者全体へ配布された文書。しかし、その後の実際の行動と照らし合わせると、その説明内容がどこまで実態を伴っていたのか、重大な疑義が生じている。
証拠文書が示す「4つの重大な不整合」
問題の文書は、令和7年12月19日、同校の4年3組の保護者宛てに配布された「児童が安心して過ごせる環境づくりについて」という校長名のプリントだ。
一見すると真摯に反省し、改善を約束しているように読めるが、その後に確認された事実と照合すると、以下の通り重大な不整合が浮かび上がる。
- 【不整合記載①】「児童間の複数のトラブル」
実際には、心身に深刻な被害を及ぼす「いじめ」に該当し得る行為も含まれていたにもかかわらず、文書では一括して「トラブル」と表現されている。結果として、事案の深刻性が保護者全体に十分伝わらない表現となっていた。 - 【不整合記載②】「いじめ対応マニュアル・ガイドラインに沿って行うべき対応が不十分であった」
学校側は、自らガイドラインに沿った対応が不十分だったことを認めている。しかし、その後、1月から2月にかけて保護者から繰り返し求められた重大事態としての対応について、明確な判断や回答が示されなかった。 - 【不整合記載③】「継続して町教育委員会の指導を受け、体制の見直しを進めてまいりました」
教育委員会から記録作成について指導を受けていたにもかかわらず、その後も、いじめ事案について学校いじめ対策組織(いじめ対策委員会)がどのような協議・判断を行ったのかを検証できる一次記録が一切残されていない。 - 【不整合記載④】「組織として最善を尽くしてまいります」
法令上「組織で対応する」ためには、いじめ防止対策推進法第22条に基づく「学校いじめ対策組織(いじめ対策委員会)」を中核として、いじめの疑いの段階から情報を共有し、組織的に協議・判断することが求められる。しかし、この文書配布後の重要事案について、同校で学校いじめ対策組織(いじめ対策委員会)が協議・判断したことを裏付ける記録は確認できていない。
保護者の再三の要請後に起きた「3月の暴行事件」
「組織で対応する」「見守りを継続する」と表明した後の1月から2月にかけて、被害女児の保護者は学校に対し、再三にわたり重大事態としての対応を求めていた。
2026年1月23日 保護者から岡部温樹校長宛のメールの一部
令和7年11月21日付で校長名・公印により作成された「再発防止について」の文書においては、校長を総括責任者とした再発防止体制、具体的な禁止行為の明示、週次での文書報告等が示されており、学校として本件を重大な事案として公式に対応していることが明確に表れています。以上を踏まえ、重大事態認定の有無(認定日・認定主体・根拠)を、教育委員会として文書で明確にしてください。併せて、認定済みである場合には、いじめ防止対策推進法第28条に基づく調査の実施状況(調査主体・調査範囲・記録の扱い)についてもご回答ください。(中略)また、仮に現時点で重大事態として未認定であるというご判断であれば、本件は被害女児が強い心理的苦痛を受け、睡眠障害・登校困難等に至った経緯を伴う事案であり、重大事態に該当し得る状況であると考えます。重大事態に該当する場合には、学校設置者または学校において、いじめ防止対策推進法第28条に基づき、速やかに事実関係を明確にするための調査を行う必要があります。よって、未認定である場合には、法令および国の指針に照らし、速やかに重大事態として認定することを正式に要望いたします。
しかし、岡部校長から重大事態該当性について明確な回答が示されない状態が続き、保護者が回答期限を設けて送付したメールに対しても、期限までに回答はなかった。
2026年2月19日 保護者から岡部温樹校長宛のメールの一部
また、当初より重大事態認定の有無について繰り返し確認しておりますが、現時点で明確なご回答をいただいておりません。本件が重大事態に該当するか否かについて、行政判断として文書にてご回答くださいますようお願いいたします。なお、本件は娘の心身に直接影響が生じている状況であり、重大事態認定の有無は今後の対応方針に直結する重要事項です。
つきましては、令和8年2月27日までにご回答くださいますようお願いいたします。
その後どうなったか。
見守り体制は十分に機能せず、見守り担当者がその場を離れていた時間帯に、担任が教室内にいたにもかかわらず、2026年3月4日、被害女児が複数回殴られ、蹴られて受傷するという深刻な被害が発生したのである。
翌3月5日の面談では、学校側自身が、授業間などの「隙間時間」に見守り体制が十分機能しなかったことを認め、追加の職員配置を行う旨を説明している。
つまり本件は、単に予測不能な暴力行為が突発的に起きたというだけではない。
学校側は既に危険性を認識し、見守り体制を構築していたにもかかわらず、その体制の実効性を十分に検証できないまま運用を続け、その体制下で被害が再び発生したのである。
なぜ「保護者会対策」の記録だけが残っているのか
さらに不可解なのが、学校いじめ対策組織(いじめ対策委員会)の記録である。学校に対する公文書公開請求の結果、令和7年度の「いじめ対策委員会」の協議記録として確認できたのは、「11月28日に開催された、12月の臨時懇談会に向けた対応を協議した記録」のみであった。
一方で、児童の安全確保、具体的な見守り体制、重大事態該当性、再発防止策などについて、同様に組織的な協議・判断を行ったことを示す記録は確認できていない。
保護者会への説明方法については記録が残っている一方で、児童の安全を守るための具体的な協議記録が確認できない。この著しいアンバランスは看過できない。
しかも、11月28日のいじめ対策委員会の議事録を精査すると、以下の疑問点が浮かび上がる。
- 「第1回」が確認できない矛盾
議事録には「第2回」と記載されているが、公文書公開請求では「第1回」に相当する記録が確認できなかった。第1回が実際に開催されたのか、開催されたものの記録が作成・保存されなかったのか、あるいは別の事情があるのか、明確な説明が必要である。 - わずか30分の「担任不在」会議
開催時間は17:00〜17:30のわずか30分。しかも出席者欄には、当該学級の状況を最も直接把握しているはずの担任の名前が確認できない。 - 保護者への説明内容を制限する方向の協議
協議内容には「今回の事案を説明しようとすると、被害児童、加害児童が特定されるような具体的な話になってしまい…」との記載がある。児童のプライバシー保護は必要であるが、具体的事実をどこまで説明し、どこからを秘匿するのかについて、説明責任とのバランスがどのように検討されたのかは不明である。 - 文章が途中で途切れたままの記録
「学級の様子について共有することが」と、文章が途中で途切れた状態で保存されている。これが完成版なのか、作成途中の文書なのかも含め、公文書の管理として疑問が残る。
つまり、児童の命と安全を守るための具体的な見守り計画や再発防止策についての協議記録が確認できない一方で、保護者会でどのように説明するかを協議した30分間の会議記録だけは残されていたのである。
事故速報カードの記載にも重大な疑義
3月4日の暴行事件後、町教育委員会が重大事態調査の申し立てを受理した2026年4月17日、岡部温樹校長は、ようやく「事故速報カード」を作成・提出している。そこには、3月5日午前8時に「いじめ対策委員会を開催」し、見守り体制について協議した旨が記載されている。
ところが、その後の確認では、この日の協議記録は存在せず、岡部校長自身も「正式な委員会としては行っていない」「教頭との共有」であった旨を説明している。
つまり、「いじめ対策委員会を開催した」とする事故速報カードの記載と、後の岡部校長自身の説明との間に、重大な食い違いが生じている。
現在、この事故速報カードの記載内容については、実際の開催実態を正確に反映しているのか、事実と異なる記載が含まれていないかを含め、県教育委員会に正式な調査申立てが行われている。
さらに、学校側に当時の一次記録が一切残されていなかったため、最終的には御代田町教育委員会が第三者委員会に提出する資料を補うため、事後的に関係教職員から聴取を行い、その内容を文書化するという事態に発展している。
第三者委員会自身も、改めて関係者から事情を確認せざるを得ない状況になっている。
設置者(町教育委員会)の指導を受けながら十分な記録を残さず、結果として町教育委員会や第三者委員会に事後的な聴取・資料作成を余儀なくさせる。
これが、学校組織として適切な危機管理だったと言えるのだろうか。
「反省しました」では済まされない
2025年12月19日、岡部温樹校長はクラスの保護者らに対し、自ら「いじめ対応マニュアル・ガイドラインに沿って行うべき対応が不十分であった」と認め、「組織として最善を尽くす」と表明した。
しかし、その後も学校いじめ対策組織(いじめ対策委員会)による協議・判断を裏付ける記録は確認できず、保護者から繰り返し求められた重大事態としての対応も長期間進まなかった。
さらに、何度も見直しを行っていたはずの見守り体制の下で3月4日の暴行被害が発生し、その後作成された事故速報カードについても、委員会開催の記載と岡部校長自身の説明との間に重大な不整合が生じている。
これらが単なる判断ミス、記録漏れ、認識不足の積み重ねだったのか。
それとも、自らの不作為や学校側の対応不全が保護者や上級機関から見えにくくなるよう、不正確な説明や報告が繰り返されたのか。
その点こそ、現在進められている調査で徹底的に検証されるべきである。
さらに忘れてはならないのは、この一連の学校側の不作為と場当たり的な対応の結果、被害女児は現在も安全な環境での登校が保障されず、学習の機会(教育を受ける権利)が奪われ続けるという深刻な二次被害に直面していることだ。学校側は2学期に向けた見守り体制の修正案を提示しているというが、これだけ約束を反故にしてきた組織に対し、紙面上の計画だけで「今度こそ安全だ」と保護者が容易に信頼できるはずもない。
また、長野県内では令和5年にも、別のいじめ重大事態において長野県子ども支援委員会から人権救済勧告が出され、ガイドラインの徹底が強く叫ばれたばかりである。それにもかかわらず、御代田南小学校において全く同じように「ガイドライン無視」と「初期対応の放置」が繰り返された事実は、過去の教訓が教育現場に一切活かされていないことを如実に示している。
2026年8月29日現在、御代田町教育委員会により、岡部校長の職務懈怠及び服務規律上の問題、公文書の記載内容等に関する調査が進められている。
今回問われているのは、一人の校長による個別の対応だけではない。
法令に基づく学校いじめ対策組織(いじめ対策委員会)を平時から実効的に機能させ、子供の危険を組織として把握し、協議し、判断し、記録し、検証する。
本来、学校が当たり前に行わなければならないこの仕組みが、御代田南小学校で本当に機能していたのか。
学校の在り方そのものが、今、問われている。









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