長野県御代田町立御代田南小学校におけるいじめ・暴行事案において、極めて異例の行政対応が続いている。設置者である御代田町教育委員会が「重大事態認定」へ向けて動き出したにもかかわらず、岡部温樹校長がそれを真っ向から拒絶し、公式文書で真逆の回答を行うという不可解な対応を見せていたが、その背景を考える上で、無視できない事実が公文書公開請求によって浮かび上がった。
保護者がいじめ防止対策推進法が施行された過去13年間に遡って公文書公開請求を行った結果、少なくとも過去5年間において、学校いじめ対策組織の開催や協議の経過を具体的に確認できる記録が極めて乏しいことが明らかになったからである。公開された公文書、録音データ、そして回答書から、時系列に沿ってその対応の全貌と行政ラインの動きを検証する。
放置と不作為の軌跡――詳細タイムライン
保護者が法律とガイドラインに基づき、一貫して文書での説明と対応を求め続けていたにもかかわらず、学校側の対応がどのように推移してきたか、時系列で整理する。
12月初旬:真っ先に相談した相手は「白鳥郷史指導主事」
対応の妥当性を検証する上で、最初の重要な節目となるのが2025年12月初旬の動向である。
2025年12月3日、保護者から学校および町教委へ、初動対応の不備と法に基づく重大事態としての対応を求める第1回目の内容証明郵便(要望書)が届けられた。本来、この要望を受けた学校において重視されるべきは、法令に従って学校いじめ対策組織(いじめ対策委員会)を機能させ、設置者である町教委の正規担当ライン(いじめ・生徒指導担当)と連携して組織的な検討に入ることである。
しかし、公文書公開請求で開示されたメールによると、要望書が届いた直後の12月5日朝、岡部温樹校長は御代田町教育委員会の担当者へ宛てて次のようなメールを送信していた。
「今朝、白鳥指導主事が8:30分に来ていただくことになっています。相談に乗っていただこうと思っています」
ここで名前の上がる白鳥郷史指導主事とは、同校の前校長である。現在は、県教育委員会の「学校改革支援センター」の支援体制上、御代田町教育委員会の担当指導主事として位置づけられ、TOCO-TONの伴走支援に関与する立場にある。
自らが前年まで校長を務め、さらに同校を含むTOCO-TON事業の伴走支援に関与する白鳥郷史指導主事が、後任校長による重大事態対応の相談相手となっていたことは、意思決定の客観性・公正性という観点から検証を要する点である。
そして、その相談後も、岡部温樹校長は保護者から2026年1月23日、2月19日(回答期限2月27日)と、度重なるメールで「重大事態認定の有無」や「いじめ防止対策推進法第28条に基づく調査の実施状況」について文書回答を求められていたにもかかわらず、これらに明確な回答を行わない状態が何ヶ月も継続した。
4月2日面談の設定経緯と、東信教育事務所とのやり取り
では、なぜ4月2日に面談が行われるに至ったのか。その背景には、事案の進展と保護者側からの詳細な書面提出があった。
2026年3月4日、加害児童Bによる暴行事件(腹部殴打・蹴り)が発生。学校側の初動対応や3月16日の終業式配布文書における表現をめぐり、保護者側は3月27日、5月からの学級崩壊、席替えでの不備、11月の校長発言、公印誓約の運用、そして未回答となっていた全10項目(A〜J)の事項を網羅した「時系列報告書・質問書」を提出した。
これを受け、岡部温樹校長は、町教委同席の下で4月2日の面談を設定することとなった。
事故速報カードの記載によれば、3月30日に岡部温樹校長は東信教育事務所に出向いて「今後の対応について指示を受ける」と記されており、その上で4月2日の面談に臨んでいる。面談の場では、町議会議員同席のもと、設置者である町教委側から「いじめ重大事態の認定に向けた方向で進める」旨が示された。
しかし、事故速報カードには、岡部温樹校長が翌4月3日に再び東信教育事務所を訪れ、「今後の対応について指示を受ける」旨が記載されている。
その後の4月10日付回答書において、岡部温樹校長は以下のように書き記している。
「校長としては、現段階で重大事態には該当しないと考えていますが…」(4月10日付回答書より引用)
設置者である町教委が示した方向性と不一致が生じる回答である。さらに、重大事態の要請や質問に回答してこなかった理由(質問事項4-(1)(2)(3))については、同文書内で「(1) (2) (3)につきましては、回答を控えさせていただきます」と記載された。
重大事態該当性について、設置者である町教育委員会が重大事態として対応する方向を示していたにもかかわらず、岡部温樹校長が「校長としては」と個人的判断の形で否定したことは、重大事態判断を学校又は設置者として組織的に行うことを求める国のガイドラインとの整合性に重大な疑問を残すものである。
公文書の整合性崩壊――事故速報カードと校長自身の説明が矛盾
さらに、提出された公文書と校長自身の説明の間には、重要な食い違いが存在する。
2026年4月17日付で県へ提出された「事故速報カード」には、「3月5日 8:00 いじめ対策委員会を開き、4年3組の見守り体制について検討する」と記載されている。
しかし、6月29日に行われた保護者との面談音声において、岡部温樹校長自身は「(重大事態の要請があった場合)委員会としては行っていません。『準じた対応』をしていくということで…」と説明している。
事故速報カードには「いじめ対策委員会を開催」と記載されている一方、岡部温樹校長自身は後の面談で「委員会としては行っていない」と説明しており、両者はそのままでは両立しない。事故速報カードの記載が実際の開催実態を正確に反映していたのか、厳格な確認が必要である。
13年間の検証で判明した記録の状況と月例報告の数値
なぜ組織的な協議記録が残りにくい状態が生じていたのか。2026年7月3日に請求した公文書開示請求の結果は、その傾向が単一の事案にとどまらない可能性を示している。
保護者がいじめ防止対策推進法が施行された過去13年間に遡って公文書公開請求を行った結果、少なくとも過去5年間において、法令に基づく学校いじめ対策組織の開催や協議の経過を具体的に確認できる記録が十分に残されていない状態が浮かび上がった。
茂木伸一前教育長・白鳥郷史前校長の在任中である約4年前には、同学年の5年2組と5年3組で同時期に学級運営が深刻な状態となり、両クラスで担任が学校に来られなくなり、年度途中で担任が交代するという異例の事態が発生していた。
ところが、この事案についても、現在までに確認された公文書では、学校がどのように事実関係を把握し、原因を分析し、組織として協議し、再発防止策を決定したのかを追跡できる十分な記録は確認できていない。
二つのクラスで同時期に担任交代にまで至る重大な学校運営上の問題が発生していたにもかかわらず、その検証過程が後から確認できないのであれば、単なる記録漏れではなく、学校組織として問題を記録・検証し、次の管理職へ引き継ぐ仕組みそのものが機能していたのかが問われる。
そして、この時期の校長が白鳥郷史氏であり、その後、御代田南小学校は県の教育改革事業「TOCO-TON」の第1期指定校となった。
さらに、開示された公文書「令和7年度 御代田南小学校 児童・生徒・職員に係る指導等月例報告 集計」によれば、令和7年度の同校全体における月例報告の集計数値は以下の通りとなっている。
- いじめ件数:年間「1件」(11月に1件記載があるのみで、他の月はすべて0件)
- 暴力行為件数:年間「2件」(11月に1件、1月に1件のみ)
実際に確認されている児童間の暴力・嫌がらせ等の状況と、月例報告に計上された「いじめ1件」「暴力行為2件」との間には、著しい乖離が存在する。
この乖離が、いじめの認知・報告基準の誤りによるものなのか、個別事案の計上漏れによるものなのか、それとも別の理由によるものなのか、検証が必要である。
少なくとも過去5年間にわたり、重大な学校問題が発生しても、その組織的な協議・判断・検証過程を後から確認できる記録が十分残されない状態が継続していた可能性が浮かび上がる。
さらに重要なのは、岡部温樹校長の下で記録が十分に残されていなかったことについて、単に「記録の必要性を知らなかった」という問題では済まされない点である。
町教育委員会は学校側に対し、いじめ等の事案について組織的に対応し、その経過を記録として残すよう指導していたことが、町教育委員会との面談等によって確認されている。
それにもかかわらず、実際に公文書公開請求で確認された資料では、重要ないじめ事案について、学校いじめ対策組織がどのように事実を共有し、協議し、判断し、再発防止策を決定したのかを追跡できる十分な記録が残されていなかった。
設置者である町教育委員会から記録を残すよう指導を受けながら、その指導が学校運営の中で十分に実行されなかったのではないか。
これは、管理職としての指揮監督や組織運営の在り方そのものに関わる問題である。
「TOCO-TONモデル校」をめぐる構造的な疑問
ここから先は、現時点で確認されている事実から生じる「構造的な疑問」であり、TOCO-TONを理由とする意図的な隠蔽が確認されたという意味ではない。
御代田南小学校は、長野県が推進する教育改革事業「ウェルビーイング実践校TOCO-TON」の「第1期指定校」であり、御代田町における中心校として位置づけられている。同校が指定を受けた当時の校長が白鳥郷史前校長であり、退任後は指導主事として御代田町教育委員会に配置され、同事業の伴走支援を担う立場に就いた。前教育長の茂木伸一氏も、TOCO-TON指定を高く評価する発言を行っていた経緯がある。
さらに注目すべきなのは、本件がすでに「いじめ重大事態」として正式な調査手続きに入った後も、御代田南小学校がTOCO-TONの実践校として積極的に対外発信され続けていたことである。
御代田町が2026年7月に発行した「みよた広報 やまゆり TOCO-TON通信 Vol.6」では、TOCO-TONについて、長野県総合5か年計画の「新時代創造プロジェクト」としてスタートした事業であると説明し、取り組みの一つとして「『望ましい行動』を育てるために、『褒めて』『認めて』『励ます』環境作りをします」と掲げている。
その同じ広報の中で、御代田南小学校については、「今年度の児童会目標は『みんなでつくろう! とにかく楽しい学校』」と紹介され、挨拶キャンペーンなど学校の前向きな取り組みが発信されている。
しかし、この広報が発行された2026年7月には、本件はすでに町教育委員会によって重大事態の申立てが正式受理され、調査手続きに入っていた。
つまり、学校内部では被害女児の安全確保、学校いじめ対策組織の運用、記録の不存在、重大事態判断の適否などが問われていた一方で、対外的にはTOCO-TON実践校として「とにかく楽しい学校」という肯定的な学校像が発信されていたことになる。
もちろん、重大事態調査中の学校がTOCO-TONの取り組みを広報すること自体をもって、不適切な行為や隠蔽と評価することはできない。
しかし、重大事態調査へ進んでいた学校の深刻な実態について、TOCO-TON事業を所管・支援する県や町の関係部署がどの程度認識し、それを同事業の評価や対外発信の中でどのように扱っていたのかは、検証すべき重要な論点である。
また、岡部温樹校長と白鳥郷史指導主事はいずれも信濃教育会の会員であるが、その人的関係が本件の意思決定に影響したことを示す直接的証拠は、現時点では確認されていない。
しかし、以下の事実関係が並ぶとき、一定の疑問が提示される。
- 前校長でありTOCO-TON担当である白鳥郷史指導主事への初期段階での相談
- 町教委が「重大事態認定の方向」と示した前後に、東信教育事務所へ出向き「指示を受ける」旨が事故速報カードに記載されていること
- 町教委の方針と不一致となる「重大事態ではない」という回答書の提示
- 町教委から記録を残すよう指導されていたにもかかわらず、重要事案について組織的な協議・判断の経過を確認できる十分な記録が残されていないこと
- 月例報告の数値と実態との乖離、および過去数年間にわたる組織的記録の不備
- 重大事態の調査手続き開始後も、町広報では御代田南小学校がTOCO-TON実践校として「とにかく楽しい学校」と肯定的に発信されていたこと
「TOCO-TONモデル校としての評価や事業継続上の利害が、重大事態対応を消極化させるインセンティブとして作用しなかったか」
「記録を十分に残さない学校運営」と、前校長から後任校長へ続く人的・行政的な関係、さらに県のモデル事業としての評価や関係者の実績が、重大事態対応の判断に何らかの影響を及ぼしていなかったのか。
その結果として、被害女児の安全確保や法に基づく重大事態対応が後景に追いやられることはなかったのか。
そして、重大事態調査が始まった後も続けられたTOCO-TONの対外発信と、学校内部で実際に起きていた問題との間にある大きな落差について、県や町はどのように認識していたのか。
公文書上の矛盾や対応の不一致について、御代田南小学校、町教育委員会、および長野県教育委員会には、客観的事実に基づく明確で誠実な説明が求められている。
当サイトは、この「TOCO-TON」をめぐる構造的な疑問について、これからもトコトン追及していく。
【追伸:過去に御代田南小学校で同様の思いをされたご家族へ】
今回、公文書公開請求によって「過去数年間にわたり法定組織の記録が十分に確認できない実態」が浮き彫りになりました。
もし過去に、学校や教育委員会の対応、説明、記録のあり方について疑問を感じながら、十分な説明を得られないまま終わったご経験をお持ちの方がいらっしゃいましたら、当時の資料や記録が現在の検証につながる可能性があります。
いじめ重大事態については、卒業後に申立てが行われる場合も想定されています。文部科学省のガイドラインでも、既に卒業した児童生徒・保護者から在籍時の重大事態について申立てがあった場合、学校・設置者は可能な調査方法を検討する必要があるとされています。過去の事案だからという理由だけで、重大事態としての検討対象から当然に除外されるものではありません。
当サイトでは、過去の類似事例や対応に関する情報・ご意見を随時お寄せいただいております。個人のプライバシーは厳重にお守りいたしますので、お心当たりのある方は情報提供フォームよりお気軽にご連絡ください。過去の事実をうやむやにせず、子どもたちの安全が最優先される教育現場を取り戻すために、今後も検証を続けてまいります。
本掲載は、特定の個人に対する人格批判や誹謗中傷を目的とするものではなく、公文書および客観的記録に基づき、教育行政の手続きや「いじめ防止対策推進法」に基づく対応の適正さを検証・公評し、公共の利益に資することを目的としています。












コメント